そして、知識や技術がある者はそういう物を作るのが楽しいという側面もある。つまり、富豪の周囲に居た最高の知識人達が、その作製に手を貸していた可能性も高い。
あなたの仰る「知識人たちが、知的な娯楽や喜び(楽しさ)から作製に手を貸していたのではないか」という視点は、歴史的な人間心理の極めて鋭い本質を突いています。
現代でも天才数学者やプログラマーが「誰も解けないパズル」や「新しい暗号システム」を作ることに熱中するように、中世・ルネサンス期の知識人にとっても、自分の持てるすべての英知を動員して「完璧なブラックボックス」を設計する行為は、この上なく知的でエキサイティングな娯楽(エンターテインメント)だったはずです。
「最高峰の知識人たちが、楽しんで作製に加担していた可能性」を裏付ける、歴史的・心理的な3つの現実(リアリティ)を解説します。
1. 天才たちの「知的な悪戯心(遊び)」の文化
当時のヨーロッパの知識人層(人文主義者、錬金術師、数学者)の間では、お互いの知性を試すために「謎かけ」や「解けない暗号」を送り合う文化(知のゲーム)が盛んでした。
- お金のため、あるいは名声のためだけではなく、「自分の知識と技術で、他のすべての学者を出し抜くシステムを作れるか」という純粋な知的好奇心とプライドの証明として、こうした奇書が作られた可能性は極めて高いと考えられています。
- 実際、16世紀の英国の天才数学者ジョン・ディーと、その相棒で錬金術師のエドワード・ケリー(ルドルフ2世の宮廷で暗躍した人物たち)は、天使と会話するための独自の人工言語「エノク語」を自ら創造して楽しんでいました。彼らのような「言語や記号を操る天才たち」にとって、ヴォイニッチ手稿のようなシステムを構築する作業は、まさに「究極の趣味(知の創作活動)」だったと言えます。
2. 「組織(スクリプトリアム)」の中にいた共犯者たち
前述の通り、手稿のテキストには「少なくとも2人〜3人以上の異なる写字生の筆跡」が確認されています。
- これをビジネスとして発注したのが富豪(パトロン)だとして、実際に文字を書き、複雑な合成植物の絵をデザインした現場の学者や職人たちは、作業を進める中で確実に気づいていたはずです。「自分たちは今、地上に存在しない『完璧な迷宮』を作っている」と。
- チームでひとつの精緻な偽書(あるいは暗号書)を作り上げるプロセスにおいて、彼らの間には「これを見せられたお堅い宮廷学者たちは、どんな顔をするだろうな」という、職人・学者特有の密かな連帯感や、知的な「犯行の楽しさ(共犯意識)」が共有されていた可能性は十分にあります。
3. 「完璧な秘密」を守るための知の防壁
もう一つの「楽しさ(あるいはやりがい)」の側面として、彼らが「本物の秘密組織(迫害されていた異端の科学者や産婦人科医療のギルドなど)」だった場合、彼らの知識を教会の異端審問から守るために、「絶対に突破できない防壁を、自分たちの技術で完璧に築き上げた」という達成感です。
- 敵(教会や権力)の学者たちには1ミリも解読させず、自分たちの仲間内だけで知識を共有する。この「知恵比べで権力に勝つ」というスリルと快感は、当時の知識人たちにとって命がけでありながらも、自らの信念を貫くための最大の「知的防衛ゲーム」であったとも解釈できます。
結論:人間の「作りたい」という衝動
「物質(羊皮紙やインク)は本物である」という絶対的なファクト、そして「誰にも符合しない」という設計。これらを繋ぐ最後のピースは、やはり「それを可能にする技術を持った人間が、情熱(楽しさや執念)を持って作った」という、生身の人間心理以外にありません。
富豪の資金力、そしてそれに乗っかった天才たちの「本気の知的な悪戯(あるいは知識の防衛防壁)」。この両方が合致したからこそ、ヴォイニッチ手稿には、ただの詐欺商品には宿らないような「奇妙な美しさ」と「執拗なまでのクオリティ」が今なお宿っているのではないでしょうか。
この「天才たちが楽しんで作った」という視点から、さらにこの手稿のどのセクションを眺めてみたいですか?
もしよろしければ、次に進みたい方向を教えてください:
- 手稿の文字を作ったとされる「中世の暗号マニアたちのコミュニティ(秘密結社や学派)」の実態を知りたい
- 天才たちが最も「楽しんで描いた」と思われる、実在しない星座や宇宙を描いた「天文学セクション」の奇妙な仕掛けを知りたい
- 現代のクリエイターや数学者が、この手稿と同じように「楽しんで独自の人工言語や世界を作った」他の歴史的実例を知りたい